人狼 JIN-ROH (アニメ映画)
Jin-Roh: The Wolf Brigade 人狼 (1998) HD trailer
今年からシネフィルWOWOWで毎月やっている「世界がふり向くアニメ術」というコーナーがある。
アニメ映画作品の放送と、それに関する解説を氷川竜介さんが行っていて、当時のスタッフさんへのインタビューなんかもある。
毎月楽しみにしていて、そんな裏話があったのかとか、そんな意味があったのか、なんて思いながら見ていた。
ひょっとすると本編よりも解説の方が好きかもしれないってぐらい気に入っているコーナー。
4月は、押井守原案・脚本、沖浦啓之監督の「人狼JIN-ROH」だった。
これまで、このコーナーで紹介されるアニメ映画は、すべて見たことがあるものだった。
攻殻機動隊やカリオストロの城、パプリカなんかを放送していた。
けれど、この人狼はまったく知らなかった。
2000年のアニメ映画で公安やテロリストが出てくる作品、ということだったので、私がスルーしたのも納得だった。
もともとSF関連への興味のなさに加え、政治色の強い作品や戦争作品は完全スルーを決め込んでいたので、脳みそが拒否していたんだと思う。
最終的には、2004年の「イノセンス」をきっかけに、押井守大好きになってしまうんだから、好みっていうのはよくわからない。
そういうわけで私の押井守歴はイノセンスからさかのぼっていくことになる。
「イノセンス」→「攻殻機動隊」→「攻殻機動隊のTVシリーズ」→「パトレイバー劇場版」といった具合。
ビューティフルドリーマーに至っては、つい先日、全部見ることができたぐらい、新参者だと思う。
監督の沖浦啓之や作画監督の西尾鉄也など、ああ!ぽいな!ぽいな!というメンツが並ぶ。
最後のセルアニメとも呼ばれている作品らしい。
舞台が敗戦後の日本。昭和30年~40年ぐらい?だと思う。
テロリストの女と、特殊部隊の男の、恋愛なのか、恋愛にもならない何かを描いている。
この作品では、赤ずきんの物語がメタファーになっていて、テロリストの赤と赤ずきん、人殺し(人間ではないもの)の象徴としての狼というふうになっている。
私の個人的な違和感なんだけれど、私はどうも狼=悪だとは思えない。
私にとって狼=神の方がイメージに近い。
以前、動物というモチーフと文化の関連が気になって、ちょこちょこ調べていたことがあるんだけれど、西洋では狼は怖いもの・悪いものの象徴だったらしい。ヨーロッパもそうだし、アメリカ大陸のコヨーテなんかもそうだ。
田畑を荒らし、家畜を食い殺す、集団で襲ってくる悪魔のような存在。それが西洋における狼像だ。
カラスなんかもそうだけど、西洋と東洋では役割や意味が違う。
日本では八咫烏は神様の使いだし、カラスや狼と悪としてしまう感性が、どうも西洋的だなあと思う。そこにまずひっかかってしまった。
ひっかかると、この制作者の意図はどっちにあるのかがわからなくなった。狼=悪としているのか、日本的な狼=神々しいというメタファーも含んでいるのか、どっちだったんだろうか。
赤ずきんをモチーフにしているなら、西洋的な狼=悪として描いているのかなと、一応判断した。
そうすると、なんだか昭和の日本を描いているのに、モチーフが西洋風で、地味な違和感を覚えてしまった。
その違和感そのものが、戦後の日本の混乱期(西洋化・近代化)の違和感と合致すると言われれば、そうかもしれない。
なんとも座りの悪い、はっきりしない感じ。でもその効果は、たぶん物語に良い影響を与えている気がした。
どの人物にも共感はあまりできないし、おもしろい話かと聞かれれば、陰鬱な話だと答える。
でも、興味深い話ではあるし、映像は見る価値がある素晴らしいものだった。ただ、二度目はないかなと思う。
ひとつ、とても良かった点は、女テロリスト雨宮圭を演じた武藤寿美さんの演技だ。
終盤、主人公の伏に向かって思いの丈を叫ぶシーンがある。
その時の彼女の言い分が、まあ身勝手なのだ。利己的で、自分のことしか考えていない甘えたことを叫ぶんだけれど、武藤寿美さんの声は本当に身勝手で未熟な少女の残酷な声に聞こえる。
その時まで気づかなかったけれど、はっと思い出したのは「イノセンス」のシーン。
私はこれとまったく同じことをイノセンスで思った。
イノセンスでも、利己的なことを叫ぶ少女の声を、武藤寿美さんは演じていたのだ。
映画はいろんな要素で成り立っていると思うし、それぞれのパーツが組み合わさって様々な効果を生んでいると思う。
でも、この武藤寿美さんの声を活かすためだけに、映画が作られたんじゃないかって錯覚するほど、耳に残って離れない印象的な声だった。