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マイビューティフルガーデン(イギリス映画)


『マイ ビューティフル ガーデン』予告編

 

「図説 英国の住宅」という本を読んでいたら、冒頭にこの映画が紹介されていた。

 

2016年のイギリス映画「マイビューティフルガーデン」。

病的なほど几帳面な主人公・ベラは、元捨て子で修道院育ちの変人。植物の無秩序さが怖すぎて、一人で暮らす家の庭の手入れがまったくできないでいた。

隣に住む偏屈な老人・アルフィーは横暴な男だけれど、庭だけはとても美しい。植物を愛するアルフィーは、ベラの無秩序な庭に対して苛立っていた。

そこへアパートの管理人がやってきて、ベラの庭を見て呆れ果てる。1ヶ月以内に庭を元に戻さないと退去させると言われたベラは、なんとか庭の手入れをしようと、アルフィーの助言を受けながら、無秩序な植物と格闘することになる。

こんな展開の話だ。

 

少女漫画の王道、ハートフルな映画だった。

展開には、だいぶご都合主義かなと思うところもあったし、ラスト間際の詰め込みすぎは残念だったけれど、おおむねおもしろい映画だった。

もう少し本格的なガーデニングの話がある方が、個人的にはいいなと思った。恋愛模様がメインの話だったので、少女漫画好きにはおすすめの映画。

特に、ベラと恋に落ちるビリーが作っているロボットが、とても可愛い。ベラがビリーのロボットを見て、物語を紡ぎ出すシーンがあるんだけれど、その作り込みもけっこうクオリティが高くてびっくりした。ガーデニング描写より、そっちの方に力が入っていたように思うので、ガーデニング目当てで見ると肩透かしをくらう。

でも、ガーデニング入門として、気分を盛り上げるためならいいのかなという感じだった。

1ヶ月で庭を復元、という課題設定がちょっと無理があるのが残念。期限を半年に引き伸ばして、ガーデニングメインの映画にしたら、マニア受けした気がする。それぐらい、役者さんやモチーフはよかった。

 

そういえば2年ほど前、NHKのBSでやたらとイングリッシュガーデンやガーデニング関連の特集番組の再放送があって、かなり見ていたんだけれど、もしかしたらこの映画の公開と関係があったのかも、と今さらながら思い至った。

 

英国人の庭への熱狂っぷりも、なかなかすごい。切り花を飾るぐらいしかしない私からすると、そんな面倒な庭付きの物件、さっさと引っ越せばいいのでは……なんて無粋なことを考えてしまう。

 

でも、そこは「英国の住宅」冒頭でしっかりと解説されいた。

英国における庭の重要性と英国人の庭(もしくは家)に対する考え方は日本とはずいぶん異なっている。日本人も、そうとうな草花好き・庭好きだと思うけれど、また違った庭への熱狂が感じられた。

 

英国人は、家と土地を切り離して考えておらず、家は土地から生えているものだと表現するらしい。安易に家を取り壊すことはせず、少しずつ修繕しながらより良い家を作っていくのが英国流。

住人が良い家を作り上げ、さらに次の住人へと引き継ぎ、家の価値を高めていこうと考えるのだそう。湿気が多く、あまり長期間の使用に耐えられない木造日本家屋とは、考え方が違う。

 

私は、日本の刹那的とも言える建築も大好きだ。

たとえば、伊勢神宮式年遷宮では、20年ごとに社殿をそっくりそのまま作り変える。社殿の新築化が行われるのだ。おそらく多くの外国人は、作り変えた社殿は、はたして本物の社殿と言えるのか、という疑問を抱くだろう。

私はこれを知った時、当たり前のように「神様も新築の方が気持ちいいだろう」と思った。依代という考え方が、自分の中にもしっかりあるんだなと感じた瞬間だった。

また、京都の上津屋橋(通称:流れ橋)を知った時も衝撃的だった。川が氾濫して、何度も橋が流されてしまう場所だったため、増水すると橋板が外れて浮かび上がるという設計になっている。

どうせ流れるんだから、流れる前提で橋にしよう、というとんでもないアイデア。こういう考え方は、できそうでできない。

自然現象を、コントロールするのか、それともそこに身を任せるのか、そういう考え方の違いが端的に現れている。どちらが良いという話ではなく、風土が文化に影響を与えるという点がとてもおもしろい。

 

 英国では、すべての土地は英国王室のものであると考えるらしい。そこから貴族が”借りて”、さらに庶民が貴族から”借りる”ということなんだとか。

土地の権利はフリーホールド(永久所有権)とリースホールド(借地権)に分かれる。リースでも90年~999年なんていう幅があるようで、日本の借地とイメージが違う。売り出す時は、土地と家とリースホールド、すべてまとめて売りに出される。リースホールドがこれほど長い期間であるのは、それだけ建物も長く使えるということなんだろう。

 

また、街並みにも一定の基準があり、道路に面して玄関が作られる。日本のように日当たりによって玄関や庭の位置を変えるわけではないのだという。

それによって、景観に統一感が出て、庭と庭が横につながり、小さな森を形成していく。そこに野生動物が住みやすい環境ができあがるという効果があるそうだ。

 

こういう前提を知って映画を見ると、なるほど、隣人の偏屈老人が、ベラの荒れた庭に文句を言う気持ちもわからなくはない。庭は個人の楽しみである以上に、地域社会への貢献でもあるのだ。

 

「地域社会への貢献」。

都会に住み慣れた現代人には、聞くだけでも苦しい気持ちになる言葉だ。こんなことを言われたら、引っ越しするしかない、きっと数年前の私なら間違いなくそう言っていた。

でも、近頃思うのは、「せねばならぬことがある」という状況は、人を幸せにもするということだ。

地域の行事には一切参加せず、冠婚葬祭もろくにせずに生きてきた合理主義の権化みたいな家庭に育った私は、こういう面倒事が、ひどく羨ましい瞬間がある。

私は確かに自由だ。隣に住む人の名前すら知らない。それでも生きていける。それは悪いことじゃない。けれど、そういう私の生活の優先順位の一番上には、たいてい「仕事」が大きくのさばっている。

これは怖いことだ。

だんじりがあるから仕事を休みにする岸和田の友人を見て、私は心から羨ましいと思う。仕事よりも優先させることがある、それが当たり前な世界はきっと豊かな世界だ。

 

 自分の庭を懸命に手入れすれば、それが誰かの役に立つかもしれないというのは、不自由にも見えるけれど、素敵な世界でもある。

これがファンタジー的であったとしても、そういう世界を目指すというのも悪くないな~なんて思う映画だった。

 

 

 

図説 英国の住宅 (ふくろうの本)

図説 英国の住宅 (ふくろうの本)