きのう何食べた? 第一話
ついに始まってしまった…!
よしながふみ原作のゲイカップル漫画「きのう何食べた?」の実写ドラマ化が決まったと聞いたとき、嬉しさ95%の中に、不安が5%ほどあった。
キャストが合ってるのだろうか、とか。
原作と違った解釈をされるんじゃないだろうか、とか。
腐女子勢とドラマ勢と色々なものが、ぐっちゃぐちゃになって炎上するんじゃないだろうか、とか。
そんなことを色々と考えた。
とても見たい。でも不安もあるという心境。
おそらく原作ファン、俳優ファン、腐女子のみなさん、それぞれがそんな風に思っていたように思う。
私はゴリゴリの腐女子文化に浸ってきた人間で、よしながふみさんと言えばバスケ漫画の二次創作が最初の出会い。
当時から異色の作風で、とにかく鬱な作風が大好きだった。
カラッとしてるのに鬱。特に男の泣き顔がたまらなく切ないし、悪い顔してるキャラがとにかくかっこいい。
キャラクターが情けない顔しているシーンも多かったように思う。
そんなよしながさんが、一般向けの商業誌で連載を始めた時の衝撃はすごかった。
男女逆転大奥という、とんでも設定の時代劇漫画。
でもやっぱりちゃんと鬱。明るいのに鬱。よしながふみテイストがそのまま残っているのに、ちゃんと一般向けの漫画になっていた。
ああ、よしながふみって天才すぎる……!と、単行本を読んではもだえ苦しんで転がっていた。
そして、この「きのう何食べた?」。
こちらの連載も衝撃的だった。
なにせ掲載誌は週間モーニング。
男性読者向けに、少女漫画的BL文化の中で連載していた漫画家さんが、ゲイカップルの話を描くなんて、どういうことなんだ!?と驚いた。
と同時に、自分はこの漫画を、なんとなく読む気になれなかった。
理由は色々とあったけれど、一番は女性向けの甘いBL漫画ではないと思ったから。
モーニングで連載するからには、よしながふみらしい鬱々とした現実へのやるせなさが全面に出てくるんだろうと思った。
そして、たぶんゲイ文化への冷静な視点を持って、作品を描きたいのかなと考えたからだ。
よしながふみは大好きだ。
でも、彼女の作風が心に刺さりすぎるため、元気な時しか読めない気もしていた。
連載が終わったら、まとめて読もう。
そう思って十数年。
まさか原作が終わるよりも先にドラマになってしまうとは思わなかった。
ドラマが始まると聞いたとき、原作を読もうか迷った。
でも、せっかくの未読。
ドラマを思う存分楽しむために、原作はドラマ終了後まで待とうと思った。
そして昨日。ついに始まってしまった。
「きのう何食べた?」が。
弁護士で倹約家のシロさん(西島秀俊)と美容師でおおらかな性格のケンジ(内野聖陽)の同棲生活。
この二人が並んでいるだけで、俳優オタクとしては嬉しい。
原作ファンの人は、あまりの再現度に驚いたと言っていた。
硬派な役が多かった西島秀俊が、ここ数年、エプロン西島と呼んでも差し支えないほど柔らかい役が増えてきていた。
その中でもこのシロさんのエプロンは、別格に似合っている。
なんといっても、気難しいところがいい。
優しい夫、柔らかい男性の象徴のようなエプロン姿は、それはそれで素敵なんだけれど、このシロさんは、そういう記号としてのエプロン姿ではないからだ。
毎日節約のために料理を作る。
自分の楽しみ、恋人の喜ぶ顔が見たい、そういう料理でもあるんだけれど、「お金を貯める」という現実感がいい。
数円の節約は、将来のため。
子どもを望めない自分にとって、お金はとても大切な味方だと、シロさんは思っている。
だからシロさんのエプロンは伊達ではないのだ。
一方のケンジも、とても可愛い。
美容師で男くさい見た目なのに、仕草はどこか女性的。
おそらく、ゲイと聞いて多くの人がイメージする姿に近い。
でも、誇張しすぎていないバランスが素晴らしい。
過剰なオネエ言葉でもなく、過剰なエロスもない。でも、にじみ出てくるゲイ感。
現実にケンジみたいな人がいたら、私は「そっちの人かな?」とは思っても、絶対に確証は得られない気がした。
ゲイを隠すシロさんと、オープンにしているケンジ。
私はゲイの人たちを知らないから、簡単にリアルだとか現実的だというのは的外れだと思うけれど、それでも二人には妙なリアリティがある。
それはおそらく、生活している人間のリアリティなんだろう。
毎日ご飯を作って、誰かと食べて過ごす。
数円の買い物に一喜一憂して、アイスが美味しいと笑いあう姿は、性別やセクシャリティを超えて、普通の生活の話だった。
腐女子の間では「丁寧な生活」となかば揶揄されながら使われる言葉がある。
ハイクオリティでおしゃれな生活をする描写のことだ。
たとえば、豆から挽いたコーヒーを丁寧にいれる描写だったり、生花が飾られている空間だったり、仕立ての良いスーツを着る描写だったりする。
もちろん、腐女子だけの言葉ではなく、広く使われている概念なんだけれど、この「丁寧な生活」という描写は、腐女子の中で根強い人気を誇っている。
どれだけハードボイルドな世界に身をおこうとも、美しい生活の描写は「萌える」のだ。
ある意味、女性の理想を具現化しているとも言える。
きのう何食べた?の生活描写は、そういう「丁寧な生活」とは少しだけ違う。
食材を使いまわし、献立を考え、倹約に励むシロさんは、ハイクオリティな生活をしているわけではない。
むしろケチと呼ばれたり、せせこましいと言われかねないほどの倹約ぶりだ。
もちろん、シロさんのその生活はある意味で理想的な素晴らしい生活なんだけれど、あくまで倹約という前提があることで、現実感がぐっと増している。
それが、よしながふみがBL雑誌ではなく、モーニングでこの漫画を連載する意味のような気がした。
それでも、きのう何食べた?は、とても「萌える」。
おそらく腐女子である人にも受けるだろうし、普通のドラマファンにも受け入れられると思う。
二人の生活は、とにかく素敵だ。
お互いがお互いを思い合っているのが画面からあふれんばかりに伝わってくる。
なんて素晴らしいキャストとスタッフなんだろう。
今後も二人の生活を見守っていこう。
そんな風に思える第一話だった。
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